MTA断髄の2年後の予後

タイトルの通りですが、断髄や直接覆髄をおこなって、直後の予後が良くても、長期的な予後が良くないとまったく意味はない。歯髄に炎症が惹起されたり、部分的な歯髄壊死が起こればそれは何の意味もないものです。今回の動画はMTAで断髄を行って2年後の右上6番のCT像です。もちろん冷温水痛や咬合痛もありません。CTから上顎洞の炎症もないことがよくわかります。これは、若年者の断髄の予後の良さを示す一症例だと思います。オリジナルの断髄の様子は 下のURLから見られます。
https://www.youtube.com/watch?v=7IRFfTSGRJs

 

直接覆髄のためのう蝕象牙質の除去について

右上6番、24歳女性のう蝕処置で現在特に症状はなく、歯髄は健康と考えられるが、 う蝕は深い。

1時間程度のものを編集してます。MTAを貼付する直前までです

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歯髄が健康で(特に症状はなく)大きなう蝕をもつ若年者の処置は意外と難しい。う蝕を完全に取りきると抜髄になるし、う蝕を残してフッ素等のセメントでカバーしていくのか。どちらを選択するのかは難しい判断です。やはり、抜髄をするとどんなに丁寧にしても、感染根管になる可能性はあるし、また、失活歯の破折の恐れもあるので抜髄は避けたい。実際に今回の症例では、隣の7番が大きな病巣をもつ感染根管になっている。一方で、露髄を避けるためにう蝕象牙質を残して、フッ素入りセメントや抗生剤などでカバーする方法は、以前にも書いたが、どの程度の厚みのう蝕象牙質を残すの?とか細菌叢に対する診断同定がないので、やや予後に不安を残す気がする。今回の症例でもレジン充填の下に軟化象牙質の発生があり、う蝕象牙質の完全除去はやはり基本な気がする。
そこで、第三の方法として、う蝕象牙質の完全除去を目指し、露髄部分はMTAでカバーするという”直接覆髄”が選択肢としてあげられる。

近年、MTAという材料が開発、臨床応用されてその臨床予後の良いことが数多く報告されています。ただし、歴史の浅い材料なのでその使用方法や適応に数々の疑問があるのも事実です。今回は、う蝕の完全除去にはクラレ社の”カリエスディテクター”を使用しました。また、歯髄直上の象牙質切削にはEr-YAGレーザーを用いています。Er-YAGレーザーでは非接触で象牙質および歯髄組織の蒸散が可能なので、余分な圧を歯髄にかけることなく、感染象牙質および感染歯髄の除去が可能です。また、ラウンドバーではバーの先端の大きさでの削合しかできませんが、Er-YAGレーザーではう蝕象牙質の選択的な削除が可能です。

術前:歯髄に近接する大きなX線透過像あり。
術前:歯髄に近接する大きなX線透過像あり。
術直後:MTAによる直接覆髄後、7番も根管治療を開始してます。
術直後:MTAによる直接覆髄後、7番も根管治療を開始してます。6番にはやや冷水痛が認められます。

MTAによる断髄の予後について

 

術直後

以前、MTAにて断髄を行った症例の経過観察をさせていただきました。術直後はやや冷水痛があったものの今は何ともなくなったそうです。レントゲンでの経過を見てみると、直後ではMTAが歯髄に接しており、MTAは歯髄に向かって凸状に充填されています。逆に歯髄はMTAに対して凹んでいます。この様子は、動画での充填の様相と矛盾しないと思います。ちょっとわかりにくいので、線で示してみました。左も右も同じ写真です。

 

約10ケ月ですが、歯髄の先端、MTAと接している部分が丸くなっているのがわかります。

別角度でもう一枚、この写真でもやはり同じように見えます。ここで歯髄の先端が丸く見えるのはMTAによって歯髄組織が硬組織に置換されてきたものと考えられます。すなわち、象牙質再生が起こっているとも考えられます。動画での軟化象牙質の除去後の歯髄露出をみて、そして歯髄を保存したことを”無謀”とみられた方も多くおられると思いますが、このように経過を見ていくと、決して無謀ではなく、きちんとした手順を踏めば、ほとんどの歯髄は保存可能と思われます。

MTAを用いた歯髄温存療法

いつの場合でも、患者さんからすると”たいして痛くないのに神経抜かれた”みたいな表現をよく聞きます。もちろん、神経の処置を行うとその歯の寿命は短くなりますので、こちらとしても”神経を取る”処置はできるだけしたくないものです。けれども、麻酔して処置してそのあと痛くなったりしても困るので、神経の処置をついついしてしまうことも多々あります。裏返すと、いままではきちんと覆髄、直接覆髄、断髄がうまくできないので神経の処置をしていたのかもしれない。うまくできないのには理由があり、それは材料学的なものが一番だと思う。いまではMTAがそれに適した材料であることが明らかになり、また、MTAでもビスマスフリーで、硬化時間の早いものが製品として出てきた。下の症例はMTAがなければ200%神経の処置をしないといけない症例だと思う。

MTA 断髄

一般に、虫歯が深い場合には神経の処置が必要になることがあります。もちろん、症状はあまりなくともです。神経の処置(神経を抜く処置)をおこなうと、その歯の寿命は著しく短くなります。なんとか神経の処置を避けるために、水酸化カルシウム製剤による覆罩や、3-mix、ドックベストセメントなどを用いた治療があります。しかしながら、どの治療も予後はいいという報告がある一方で、軟化象牙質を一部残す場合があり、この場合は術者の技量に依存する割合が大きくなります。なぜなら、軟化象牙質をどの程度残すのか、また、そこに残っている細菌の量、質は定量できないからです。言い換えるならこのような治療はやや不確定な要素が大きすぎます。(だから、ある人は絶賛するし、またその他の人は採用しない、、温度差の激しい治療法です)

最近はMTAをつかっての直接覆髄、断髄が予後がいいことがわかってきて普及しつつあります。この処置は、マイクロスコープ下で、可及的に軟化象牙質を除去し、MTAで封鎖をおこなう術式です。軟化象牙質を残さない方法なので、露髄する面積が広いですが、止血を行い、MTAの歯質接着性と生体親和性に頼った治療法です。以前のMTAは造影剤として酸化ビスマスが含まれており、歯質が黒変するのが欠点だったのですが、今では酸化ビスマスを含まない覆罩用のMTAも開発され入手可能になってきました。