直接覆髄のためのう蝕象牙質の除去について

右上6番、24歳女性のう蝕処置で現在特に症状はなく、歯髄は健康と考えられるが、 う蝕は深い。

1時間程度のものを編集してます。MTAを貼付する直前までです

h

歯髄が健康で(特に症状はなく)大きなう蝕をもつ若年者の処置は意外と難しい。う蝕を完全に取りきると抜髄になるし、う蝕を残してフッ素等のセメントでカバーしていくのか。どちらを選択するのかは難しい判断です。やはり、抜髄をするとどんなに丁寧にしても、感染根管になる可能性はあるし、また、失活歯の破折の恐れもあるので抜髄は避けたい。実際に今回の症例では、隣の7番が大きな病巣をもつ感染根管になっている。一方で、露髄を避けるためにう蝕象牙質を残して、フッ素入りセメントや抗生剤などでカバーする方法は、以前にも書いたが、どの程度の厚みのう蝕象牙質を残すの?とか細菌叢に対する診断同定がないので、やや予後に不安を残す気がする。今回の症例でもレジン充填の下に軟化象牙質の発生があり、う蝕象牙質の完全除去はやはり基本な気がする。
そこで、第三の方法として、う蝕象牙質の完全除去を目指し、露髄部分はMTAでカバーするという”直接覆髄”が選択肢としてあげられる。

近年、MTAという材料が開発、臨床応用されてその臨床予後の良いことが数多く報告されています。ただし、歴史の浅い材料なのでその使用方法や適応に数々の疑問があるのも事実です。今回は、う蝕の完全除去にはクラレ社の”カリエスディテクター”を使用しました。また、歯髄直上の象牙質切削にはEr-YAGレーザーを用いています。Er-YAGレーザーでは非接触で象牙質および歯髄組織の蒸散が可能なので、余分な圧を歯髄にかけることなく、感染象牙質および感染歯髄の除去が可能です。また、ラウンドバーではバーの先端の大きさでの削合しかできませんが、Er-YAGレーザーではう蝕象牙質の選択的な削除が可能です。

術前:歯髄に近接する大きなX線透過像あり。
術前:歯髄に近接する大きなX線透過像あり。
術直後:MTAによる直接覆髄後、7番も根管治療を開始してます。
術直後:MTAによる直接覆髄後、7番も根管治療を開始してます。6番にはやや冷水痛が認められます。

MTAによる断髄の予後について

 

術直後

以前、MTAにて断髄を行った症例の経過観察をさせていただきました。術直後はやや冷水痛があったものの今は何ともなくなったそうです。レントゲンでの経過を見てみると、直後ではMTAが歯髄に接しており、MTAは歯髄に向かって凸状に充填されています。逆に歯髄はMTAに対して凹んでいます。この様子は、動画での充填の様相と矛盾しないと思います。ちょっとわかりにくいので、線で示してみました。左も右も同じ写真です。

 

約10ケ月ですが、歯髄の先端、MTAと接している部分が丸くなっているのがわかります。

別角度でもう一枚、この写真でもやはり同じように見えます。ここで歯髄の先端が丸く見えるのはMTAによって歯髄組織が硬組織に置換されてきたものと考えられます。すなわち、象牙質再生が起こっているとも考えられます。動画での軟化象牙質の除去後の歯髄露出をみて、そして歯髄を保存したことを”無謀”とみられた方も多くおられると思いますが、このように経過を見ていくと、決して無謀ではなく、きちんとした手順を踏めば、ほとんどの歯髄は保存可能と思われます。

MTA20カプセル購入

個人輸入で、MTA購入。2017/11/27にオーダーして11/30に届いた。なんともはや便利な時代になった。と思ったら国内でも8月ころから売られてるみたい。HP

国内だと1カプセル3600~4000円ぐらい。実売は3000円ぐらいでしょうか?0.085gで3000円としてグラム3万5千円です。

ちなみに保険診療では直接覆髄は1200円ぐらいですかね。

 

左上4 直接覆髄

歯髄(歯の神経)を取らないほうが、歯が長期的に残るのは論を待たない。しかしながら、日本はやたらと神経をとる国に入ると思う。これは、後々のトラブルをおそれてなのか、保険制度の問題か、もしくは日本の歯科教育の問題かもしれない。しかし、関係者なら、神経の処置をしない=言い換えるなら歯髄保存療法がどれだけ大切かはよく知っているので、確実で安心な歯髄保存療法の出現が待たれている。いままで、いろんな方法がでてきたものの、MTAによる歯髄保存療法はその予後の良さがとびぬけているように思う。また、海外の論文でも報告は多く、その予後の良さにはエビデンスがあるといっていいと思う。例えば、、

 

A randomized trial of direct pulp capping in primary molars using MTA compared to 3Mixtatin: a novel pulp capping biomaterial.

3-mix と シンバスタチン のコンビネーションは詳しくはしらないけど、論文の中で、MTAの成功率は93.8%、それに対して単なる3-mixは57.1%との報告(3-mixの成功率の低さ、、、)

Direct Pulp Capping With Mineral Trioxide Aggregate: An Observational Study

BogenらによるとMTAによる歯髄保存療法は97.96%の成功率で特に若年者の15症例では優れた成績を残したとのことであった。(超意訳です、、) All teeth in younger patients (15/15) that initially had had open apexes showed completed root formation (apexogenesis).

 

歯を残すためには、、安易に神経を取る処置をしないこと、これに尽きると思う。以前は 歯髄の露出=抜髄処置 であったがこれからは変わってくるように思う、ただ、ラバーダム、歯科用顕微鏡そして直覆用のMTAの使用が必須だと思います。

術前:

右上4番遠心にカリエスがあり。その範囲も広く、露髄の心配をしないといけない。ただし。冷水痛はあるものの、その他の症状はない。

 

 

術後:歯髄ギリギリまで、(動画では露出しているので、ギリギリではないが、、)修復物認められる。術直後に痛みがあったが、その後は落ち着いており、現在のところ咬合痛などはない。