間接覆髄左上2番 MTA

今回は間接覆髄。左上2番で22歳の方です。前歯がう蝕で変色しています。特に痛みなどの症状はありません。このようなケースは臨床でよく見かけるケースだと思います。しかし、患者さんの立場と歯科医師の立場では考えることはかなり違うはずです。

患者さんは、前歯で見た目も悪いので直したいし、特にいま症状もないのでさっと治ると考えられると思います。しかし、歯医者からみると年齢が若いので歯髄腔もひろく、う蝕の範囲も広そうなので麻酔下の処置が必要で、術後の痛みが出る可能性も考えて、最初から抜髄(神経をとる処置)を選択する先生もおられると思います。患者さんサイドからみると痛くもない歯を神経の処置をすると、、

抜髄処置をするとどうしても、そののちに”変色”や”破折”といったトラブルのもとになるのですが、お互い、どうしても先のことより今のことを考えがちなのでこの程度のう蝕で抜髄になることは多いと思います。(先のことより、、のくだりが日本の保険治療の典型的な悪い考え方だと思いますが、そのことについてはまた今度、、)

今回の症例では、虫歯をきちんと取りつつ、神経の保存も念頭に置いた処置です。最初に直接覆髄も念頭に置いて、浸麻およびラバーダムをします。う蝕をランドバーで除去し、最後の微妙なところはEr-YAGレーザーで除去しています。一般にレーザーでの除去は切削片も出ないし、もしも神経が露出しても安全に感染歯髄および感染歯質を除去できると思います。今回は神経が露出することはなかったので、露出した象牙質をMTAでカバーして、仮封して終了です。直後のレントゲンで、MTAが歯髄ギリギリまで充填されている様子がわかりますが、とくに問題は今のところないようです。

MTAを用いた歯髄温存療法

いつの場合でも、患者さんからすると”たいして痛くないのに神経抜かれた”みたいな表現をよく聞きます。もちろん、神経の処置を行うとその歯の寿命は短くなりますので、こちらとしても”神経を取る”処置はできるだけしたくないものです。けれども、麻酔して処置してそのあと痛くなったりしても困るので、神経の処置をついついしてしまうことも多々あります。裏返すと、いままではきちんと覆髄、直接覆髄、断髄がうまくできないので神経の処置をしていたのかもしれない。うまくできないのには理由があり、それは材料学的なものが一番だと思う。いまではMTAがそれに適した材料であることが明らかになり、また、MTAでもビスマスフリーで、硬化時間の早いものが製品として出てきた。下の症例はMTAがなければ200%神経の処置をしないといけない症例だと思う。

MTA 断髄

一般に、虫歯が深い場合には神経の処置が必要になることがあります。もちろん、症状はあまりなくともです。神経の処置(神経を抜く処置)をおこなうと、その歯の寿命は著しく短くなります。なんとか神経の処置を避けるために、水酸化カルシウム製剤による覆罩や、3-mix、ドックベストセメントなどを用いた治療があります。しかしながら、どの治療も予後はいいという報告がある一方で、軟化象牙質を一部残す場合があり、この場合は術者の技量に依存する割合が大きくなります。なぜなら、軟化象牙質をどの程度残すのか、また、そこに残っている細菌の量、質は定量できないからです。言い換えるならこのような治療はやや不確定な要素が大きすぎます。(だから、ある人は絶賛するし、またその他の人は採用しない、、温度差の激しい治療法です)

最近はMTAをつかっての直接覆髄、断髄が予後がいいことがわかってきて普及しつつあります。この処置は、マイクロスコープ下で、可及的に軟化象牙質を除去し、MTAで封鎖をおこなう術式です。軟化象牙質を残さない方法なので、露髄する面積が広いですが、止血を行い、MTAの歯質接着性と生体親和性に頼った治療法です。以前のMTAは造影剤として酸化ビスマスが含まれており、歯質が黒変するのが欠点だったのですが、今では酸化ビスマスを含まない覆罩用のMTAも開発され入手可能になってきました。