MTA 断髄

一般に、虫歯が深い場合には神経の処置が必要になることがあります。もちろん、症状はあまりなくともです。神経の処置(神経を抜く処置)をおこなうと、その歯の寿命は著しく短くなります。なんとか神経の処置を避けるために、水酸化カルシウム製剤による覆罩や、3-mix、ドックベストセメントなどを用いた治療があります。しかしながら、どの治療も予後はいいという報告がある一方で、軟化象牙質を一部残す場合があり、この場合は術者の技量に依存する割合が大きくなります。なぜなら、軟化象牙質をどの程度残すのか、また、そこに残っている細菌の量、質は定量できないからです。言い換えるならこのような治療はやや不確定な要素が大きすぎます。(だから、ある人は絶賛するし、またその他の人は採用しない、、温度差の激しい治療法です)

最近はMTAをつかっての直接覆髄、断髄が予後がいいことがわかってきて普及しつつあります。この処置は、マイクロスコープ下で、可及的に軟化象牙質を除去し、MTAで封鎖をおこなう術式です。軟化象牙質を残さない方法なので、露髄する面積が広いですが、止血を行い、MTAの歯質接着性と生体親和性に頼った治療法です。以前のMTAは造影剤として酸化ビスマスが含まれており、歯質が黒変するのが欠点だったのですが、今では酸化ビスマスを含まない覆罩用のMTAも開発され入手可能になってきました。

 

 

 

ビスマス フリー MTA

酸化ビスマスを含有していないMTAです。MTAは本来X線造影性がないので酸化ビスマスが添加してあります。しかし、長期的に歯を黒く変色させるので、ビスマス抜き(ビスマスフリー)のものが審美領域では必要なのです。現在は個人輸入をして、同意をいただけるかたに使用させていただきます。(2017・3・17現在)

 

MTAをつかっての逆根充

 逆根充とは、文字通り根っこの治療が口の中から無理な場合に行うものです。特に、何か理由があって歯冠補綴物がはずせない場合や、難治性の根管治療の場合に行う手術です。外科的に根っこの外からお薬を詰めます。従来の方法では肉眼で行うので、かなり予後も悪かったのですが、現在では顕微鏡下でおこなうことで、予後も格段に良くなりました。
右の写真の方も黄色に示した場所に膿がたまっていて、痛みがあるとのことでした。前医では抜歯を勧められたそうです。この歯には太く長い芯棒がはいっているので、ちょっと除去するのはリスクがあります。そこで、赤い場所をMTAで逆根充することにしました。術直後では膿をさらってるので、根っこの先の暗い感じが強くなってますが、そのことについては特に問題ありません。3枚目が術後12日のレントゲンですか、暗い感じもなくなり、調子よさそうです。もちろん痛みなどもありません。

 

 

 

 

MTA は魔法のお薬??

今回は少し変わったタイトルですが、、

MTAは覆髄として保険適用されていますが、根管充填剤としては保険適応外です。しかしながら、正確に手順を守って使えばこれほどよい根管充填剤はないと思います。今までの常識では100%保存不可能だと考えられていた歯、(論議するまでのないぐらいひどい状態であっても)も治癒に持っていくことができることもあります。しかしながらそれは、顕微鏡下での確実な根管清掃や、CTを用いた確実な診断あってこそです。ただ、単にMTAを充填しただけでは治りません、魔法のお薬ではないのですから。

なぜ、そのようなことを書いたかというと、先日歯科医師会での休日診療を行っていたところ、上顎が腫れた患者さんが来られました。上顎の歯にMTAが充填してありました。お話を聞くと”根っこの先の膿は取れないので、MTAをいれてみましょう?”だそうです。MTAは魔法のお薬ではないので、根管拡大等の処置が不十分なところにいれても無駄だと思うのですが、、、

この写真の患者さんは歯茎の腫れがひかないとのことで来院されました。レントゲンでは

1:リーマーの破折があり、

2:パーフォレーションもあり、

3:一部歯が破折しているようにも見えます。

さすがにこれは”無理です”とお断りしようかなと思ったのですが、歯を実際に診てみると意外に動揺はありませんでした。ということは

3:破折はしているけれども、完全破折ではない。2:パーフォレーションはリペアすればいいし、1:リーマーは除去すればいい。と考えられました。破折部分はMTAを充填することにより硬組織の再生にもつながります。

初診時にしっかりとお話をして同意が得られたので、浸麻して根管内のものをすべて除去し、根管の清掃を徹底的に行いました。根管内には増殖した歯肉もあったのですがこれはEr-YAGレーザーで除去しました。2回目の来院では歯肉の腫れ、慢性的な痛みもすべて消えていました。そこで、根管充填およびパーフォレーションリペアをMTAをもちいて行いました。

MTAの充填終了後です。もちろん、すべての症状は消え、なんの問題もありません。このような症例ではガッターパーチャーでの充填は無理だと思われます。MTAを使用してならではの症例だと思います。これでみるとやっぱMTAは魔法の薬かもね~~

 

 

 

 

破折器具除去、パーフォレーションリペアとMTAによる根管充填

 知り合いの先生からの紹介、治療途中で器具が破折したらしい、2か月間がんばったが除去できない、もちろん歯の痛みも取れないとのこと。2

 最初に断っておくと、折れない器具はありません(当たり前)。なので細心の注意をはらっても、折れることもあります。おれてもその先に感染源がなければ無理に除去する必要はありませんし、何の問題もありません。しかしながら、今回の場合は破折器具がやや根尖を突き抜けているし、病巣もあるし、歯も痛いので除去は必須です。できなければ抜歯です。言い換えるなら、保険治療なら100%抜歯です。

今回の破折器具の除去は非常に簡単でした。あまりに簡単なので、ラバーダムするの忘れてます、、、、マイクロを除いて、破折器具が見えている、動揺しているので何の問題もなく取れました。10分とかかっていません。

次の問題は近心壁に穿孔していることと、根尖が大きく壊れていることです。穿孔部から覗いている組織はEr-YAGレーザーで処理します。余分な歯質は削除しないし、象牙質の表面処理も同時にできているので、このような場合にEr-YAGレーザーの使用はとっても便利です。あとはMTAにて穿孔部をリペアしつつ、根管充填を行うことで問題解決です。project-screenshot

処置終了後、1か月程度の様子ですが、根尖の透過像などすべてが回復傾向にあると思います。